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山田宏一   シルヴィア・シドニーのまごころ


 シルヴィア・シドニーは一九三〇年代のハリウッドの「最も悲しみにみちた瞳」の女優だった。
いつも、小さなかわいらしい丸顔に大きな眼をして、そのつぶらな瞳――というよりは目玉という感じなのだが、ベティ・デイヴィスの憎々しい目玉とは対照的なせつないくらいの愛くるしさだ――に涙をいっぱいたたえ、こみあげてくる悲しみにくちびるをふるわせ、かろうじて嗚咽をこらえていた。顔の半分くらいはありそうな大きな額はまるで悪意というものを知らない無垢にかがやいているかのように白くきれいで(心配事があると、顔いっぱいにその白くきれいな額をくもらせる)、小柄なからだ全体がまるで凍えるようにうちふるえ、暗い、喜びなき人生を一生懸命に生きようと傷つき、もだえているかのようだった。
 D・W・グリフィス監督のサイレント映画のヒロイン、あの、「彼女に対してかくもきびしくつめたかったこの世に最後の微笑みを送って」死んでいった『散り行く花』(一九一九)の薄幸のヒロイン、リリアン・ギッシュにも比較された。ただ、くちびるだけは、リリアン・ギッシュのおちょぼ口とは似ても似つかぬ、大きくふくよかな口唇で、それだけに、美しいまごころそのものといった彼女の小さなまるぽちゃの顔に微笑みが浮かぶと、あっという間に歓びがひろがって、こんなに思いがけなくて、こんなにうれしくて、こんなに感動的で、こんなに心をなごませてくれるものがこの世にあるんだろうかと思わせるくらいだし、愛する夫や恋人に熱いくちづけをするとき(彼女は、夫を、恋人を、いつも、まるで二度と帰ってこないと思っていたひとが帰ってきたかのような歓びにふるえながら迎え入れて抱きすくめるのである)、彼女ほど熱のこもったキスをする女性がこの世にいるだろうかとすら思わされるのだ。


(山田宏一 『新編 美女と犯罪』 ワイズ出版 P125)
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by JustAChild | 2010-08-28 04:52 | Wards


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