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ローラ殺人事件  Laura

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by JustAChild | 2010-09-26 02:41 | L

山田宏一   ジーン・ティアニーのローラ


一九四〇年代のハリウッドのフィルム・ノワールを妖しく彩ったファム・ファタール(妖婦=運命の女あるいは魔性の女)のなかでも、『ローラ殺人事件』のジーン・ティアニーは最も魅惑的な謎の美女だ。

<中略>

 「ローラが死んだあの週末をわたしは忘れない」というクリフトン・ウェッブのナレーションと回想から映画は始まる。典型的なフィルム・ノワールの話法だ。ローラの「保護者」であったジャーナリストのクリフトン・ウェッブがダナ・アンドリュースの刑事に向かって回想形式で語る話のなかにジーン・ティアニーのローラが生きた姿で出てくるのだが、ダナ・アンドリュースはもちろんまだ彼女の死体と彼女の部屋に飾られた肖像画しか見ていない。そして、すでに恋をしているのだ。「死体に恋をする」倒錯性をずばりクリフトン・ウェッブに指摘されるのも当然なのである。それから十四年後に死んだ女のイメージにとり憑かれて破滅にに向かう『めまい』(アルフレッド・ヒッチコック監督、一九五八)のジェームズ・スチュアートの前身と言ってもいいかもしれない。それからさらに三十一年後には、デヴィッド・リンチ監督がテレビ・ドラマ・シリーズ『ツイン・ピークス』で死んだ女(ローラという名は偶然だろうか?)に魅せられたように捜査をつづけるFBI捜査官(カイル・マクラクラン)を登場させることになる。
 ダナ・アンドリュースは、殺人事件の捜査にかこつけて、ローラの香水が――女の香りが――まだただようアパートに単身入りこみ、泊まりがけで、彼女の遺品を調べ、その「思い出」にふれる。
 暖炉の上の壁に掛けられたほとんど等身大のローラの肖像画に魅せられたまま、彼は深い椅子に腰をおろして眠ってしまう。テーマ音楽のメロディーが静かに流れる(シンセサイザーで処理されたような不思議な、そして悲痛な音色のテーマ音楽がメランコリックなムードを高めた記憶があるのだが、ビデオで見た版は、デヴィッド・ラクシンのスコアの美しい旋律には聴き覚えがあるものの、ごくふつうのオーケストラ演奏だった。記憶のなかで伴奏音楽の音色がふくらんでしまったのかもしれない)。
 外はどしゃ降りの雨である。それだけいっそう、部屋のなかの静けさが伝わってくる。ものすごくいいムードだ。キャメラがゆるやかに眠る男に寄っていく――まるで夢のシーンに入っていくかのように。それからまた、ワンカットのままキャメラを引くと、壁のローラの肖像画がフレームに入ってくるあたりで、ドアのあく音がする。キャメラがふりむくようにドアのほうをとらえると、レインコート姿の若い女が部屋に入って、ドアをしめるところである。女は誰かがソファに眠っているのにきづき、暖炉のわきの灯をつける。男は目をさまし、おどろいて見つめる。そこには死んだはずのローラが、夢の女が、立っているのである。
 ヒッチコックの『めまい』で、淡いグリーンの光に彩られて、死者の中から、キム・ノヴァクが、ジャームズ・ステュアートの前に、よみがえってくるシーンを想起させる、あるいはむしろ予告する、すばらしさだ。
 「生きていたのか」と男は信じられないように女に向かって言う。壁に掛けられた絵からそのまま抜け出てきたような非現実的なイメージではないにもかかわらず、彼女の「出現」は悪夢のはじまりを告げるかのようだ。ジーン・ティアニーは幽霊のように出てきたかに見えるが、そのレインコート姿はリアルでエロチックですらある。
 ローラはレインコートに取り付けた柔らかいフードのような帽子をかぶっているのだが、額をあらわにだしたデザインはジーン・ティアニーの魅力をさりげなく強調するためにちがいない。



(山田宏一 『新編 美女と犯罪』 ワイズ出版 P100)
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by JustAChild | 2010-08-15 01:51 | Wards

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ローラ殺人事件  Laura

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by JustAChild | 2010-09-26 02:41 | L

山田宏一   ジーン・ティアニーのローラ


一九四〇年代のハリウッドのフィルム・ノワールを妖しく彩ったファム・ファタール(妖婦=運命の女あるいは魔性の女)のなかでも、『ローラ殺人事件』のジーン・ティアニーは最も魅惑的な謎の美女だ。

<中略>

 「ローラが死んだあの週末をわたしは忘れない」というクリフトン・ウェッブのナレーションと回想から映画は始まる。典型的なフィルム・ノワールの話法だ。ローラの「保護者」であったジャーナリストのクリフトン・ウェッブがダナ・アンドリュースの刑事に向かって回想形式で語る話のなかにジーン・ティアニーのローラが生きた姿で出てくるのだが、ダナ・アンドリュースはもちろんまだ彼女の死体と彼女の部屋に飾られた肖像画しか見ていない。そして、すでに恋をしているのだ。「死体に恋をする」倒錯性をずばりクリフトン・ウェッブに指摘されるのも当然なのである。それから十四年後に死んだ女のイメージにとり憑かれて破滅にに向かう『めまい』(アルフレッド・ヒッチコック監督、一九五八)のジェームズ・スチュアートの前身と言ってもいいかもしれない。それからさらに三十一年後には、デヴィッド・リンチ監督がテレビ・ドラマ・シリーズ『ツイン・ピークス』で死んだ女(ローラという名は偶然だろうか?)に魅せられたように捜査をつづけるFBI捜査官(カイル・マクラクラン)を登場させることになる。
 ダナ・アンドリュースは、殺人事件の捜査にかこつけて、ローラの香水が――女の香りが――まだただようアパートに単身入りこみ、泊まりがけで、彼女の遺品を調べ、その「思い出」にふれる。
 暖炉の上の壁に掛けられたほとんど等身大のローラの肖像画に魅せられたまま、彼は深い椅子に腰をおろして眠ってしまう。テーマ音楽のメロディーが静かに流れる(シンセサイザーで処理されたような不思議な、そして悲痛な音色のテーマ音楽がメランコリックなムードを高めた記憶があるのだが、ビデオで見た版は、デヴィッド・ラクシンのスコアの美しい旋律には聴き覚えがあるものの、ごくふつうのオーケストラ演奏だった。記憶のなかで伴奏音楽の音色がふくらんでしまったのかもしれない)。
 外はどしゃ降りの雨である。それだけいっそう、部屋のなかの静けさが伝わってくる。ものすごくいいムードだ。キャメラがゆるやかに眠る男に寄っていく――まるで夢のシーンに入っていくかのように。それからまた、ワンカットのままキャメラを引くと、壁のローラの肖像画がフレームに入ってくるあたりで、ドアのあく音がする。キャメラがふりむくようにドアのほうをとらえると、レインコート姿の若い女が部屋に入って、ドアをしめるところである。女は誰かがソファに眠っているのにきづき、暖炉のわきの灯をつける。男は目をさまし、おどろいて見つめる。そこには死んだはずのローラが、夢の女が、立っているのである。
 ヒッチコックの『めまい』で、淡いグリーンの光に彩られて、死者の中から、キム・ノヴァクが、ジャームズ・ステュアートの前に、よみがえってくるシーンを想起させる、あるいはむしろ予告する、すばらしさだ。
 「生きていたのか」と男は信じられないように女に向かって言う。壁に掛けられた絵からそのまま抜け出てきたような非現実的なイメージではないにもかかわらず、彼女の「出現」は悪夢のはじまりを告げるかのようだ。ジーン・ティアニーは幽霊のように出てきたかに見えるが、そのレインコート姿はリアルでエロチックですらある。
 ローラはレインコートに取り付けた柔らかいフードのような帽子をかぶっているのだが、額をあらわにだしたデザインはジーン・ティアニーの魅力をさりげなく強調するためにちがいない。



(山田宏一 『新編 美女と犯罪』 ワイズ出版 P100)
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